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最近の研究により、重度の乾癬を患う患者さんは2型糖尿病の発症リスクが高いということが判明しました。英国の2002年から2013年までの11年間に渡る「健康に関する記録」を多数保管しているデータベースを調査した研究をご紹介します。この調査では、乾癬を有する患者さんの平均年齢は40代後半で、男女比はほぼ同じでした。乾癬の重症度を、内服薬を服用の有無で分けたところ、85232名が軽度(内服薬を服用していない)、5648名が重度(内服薬を服用している)でした。また、重症度別に糖尿病の発症リスクを解析したところ、重度の乾癬患者さんで糖尿病の発症リスクが30%上がり、軽度の乾癬患者さんでは17%上がることが明らかになりました。
最近、内分泌関係の学術誌に掲載された総説論文によると、糖尿病を患う乾癬患者がグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬を糖尿病治療のために服用したところ、乾癬の症状にも改善が見られたと報告されています。現在、GLP-1受容体作動薬の乾癬治療への適応を検討する3つの臨床試験が実施されており、今後もGLP-1受容体作動薬が乾癬へ有効な治療薬であるかどうか、長期に渡る追跡が必要となると言われています。
GLP-1受容体作動薬の商品名:ビクトーザ
乾癬の合併症の1つである2型糖尿病は、炎症と関連していると専門家は指摘しています。以前行われた研究では、脂肪細胞が炎症を促進するサイトカインを分泌するため、2型糖尿病と乾癬の危険因子とされる肥満は、炎症を悪化させる可能性があると示唆されています。
乾癬疾患の炎症を引き起こすサイカトインとして腫瘍壊死因子TNF-αが知られており、乾癬の治療に用いられるエタネルセプト(商品名:エンブレル)やアダリムマブ(商品名:ヒュミラ)のような生物学的製剤はTNF-αをブロックする働きをもちます。
GLP-1は膵臓からのインスリンの分泌を促進する働きをもちます。また、脂質異常や高血圧を是正すると共に免疫細胞に作用して慢性炎症を是正すると言われています。乾癬の炎症を引き起こすTNF-αをGLP-1受容体作動薬が阻害することがすでに立証されています。
乾癬の重症度の評価法には、皮膚の状態をもとに評価する方法や、乾癬による生活の質への影響を評価したものなどがあります。PASIスコア(Psoriasis Area and Severity Index Score)は、皮膚の紅斑、落屑(表皮の剥離)、プラークの厚さと症状が出ている皮膚の面積から点数化したもので、一般的にPASIスコアが10以下の場合は比較的症状が軽い方と言われており、治療効果判定に使われることもあります。最近行われた研究では、乾癬の経口治療薬であるアシトレチンとGLP-1受容体作動薬の両方を服用する患者さんで、乾癬症状が出ている皮膚の面積が狭くなり、PASIスコアも14.2から7.6へと改善が見られました。
内服による加療をおこなったケースでは、糖尿病の症状が改善するより前に、乾癬の症状の改善が見られた患者さんも見受けられます。このことは、免疫システムに直接作用することにより症状が改善したことが示唆されています。
乾癬を含む慢性炎症性疾患を患う患者さんの冠動脈性心疾患、2型糖尿病のリスクを評価した研究では「重度の乾癬は2型糖尿病および冠動脈性心疾患と関連している」と結論づけられています。今回ご紹介した研究は、心臓病に関するリスク評価だけではなく、他の合併症を引き起こす可能性も解析し、糖尿病と乾癬の関係を明らかにしました。また血中のCRP(C反応性タンパク質:炎症がある状態の時に増加する)レベルを測り、炎症の程度を分け、より重度の炎症が、糖尿病や心血管系疾患の発症リスクを増加させることも明らかにしました。炎症性疾患の治療にあたる場合、医療従事者は患者さんに心臓病及び糖尿病に対するリスクを説明し、血中のCRPレベルを測りこのような合併症の発症リスクを見極めることが求められるとしています。
2型糖尿病治療薬は乾癬の治療薬としての効果も期待出来るとされており、うち2つは乾癬患者のみを対象としたもので、もう1つは乾癬と2型糖尿病の両方を合併している患者を対象としています。もし患者さんに複数の転帰リスクがある場合、乾癬は心血管疾患と2型糖尿病の発症への関連性が最も深いと言えます。
以前より心血管系疾患の発症リスクに関連する研究は行われていましたが、米国心臓協会に発表された研究には、重度の乾癬を患う患者さんは心臓病を発症するリスクも高いことがあると指摘されています。
心臓病の発症リスクは、重度の乾癬患者さんで29%高く、軽度の乾癬患者さんでは3%高いという結果が出ました。
乾癬の重症度に炎症性サイトカインがかかわっているのは間違いなさそうです。糖尿病の悪化要因の一つとしてTNF-αなどの炎症性サイトカインが関わっていることが分かっていますから乾癬と糖尿病に関係があったとしても不思議はありません。メトホルミンなどのインスリン抵抗性改善薬は腸内環境を改善させることで炎症性サイトカインを抑える可能性があることが話題になっています。そういう観点からは乾癬を改善させるためには炎症性サイトカインを以下に抑えるかを考える必要があると思います。腸内環境(不耐症の食事を避ける)、適切なビタミンのレベルを保つ、定期的なエクササイズ(高付加有酸素運動?)などのライフスタイルに気を付ける必要があると思います。
参考文献
https://www.psoriasis.org/advance/type-2-diabetes-drug-helps-psoriasis-too
https://www.psoriasis.org/advance/severe-psoriasis-linked-to-greater-risk-of-type-2-diabetes