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乾癬とビタミンD

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乾癬は、免疫細胞のうちTh1(1型ヘルパーT細胞)が誤作動を起こして、正常な細胞を傷つけてしまうことによって生じる全身性の疾患であることが分かっています。誤作動を起こした免疫細胞は、血管の内皮細胞や好中球、成長因子などを活性化し、最終的に、ケラチノサイトの増殖をもたらします。

 

乾癬の患者さんにおいて、ビタミンD欠乏症は頻繁にみられます。この頻度は季節によって変化し、冬では患者さんの80%、夏では50%に生じます。ビタミンDと乾癬との関係は、年齢や性別などの影響を受けません。

乾癬とビタミンDの関係は、いくつかの研究から指摘されています。ある研究では、乾癬の男性患者さんでは骨粗鬆症を発症するリスクが高いことが示されました。骨粗鬆症の原因として、ビタミンDが関与していることは有名です。

これ以外にも、ビタミンDの不足は糖尿病やメタボリックシンドローム、心血管疾患とも関連があります。

 

乾癬の治療法の1つとして、ビタミンDの内服や外用薬が用いられることがあります。ビタミンDは、ケラチノサイトの増殖や分化を調節して皮膚の症状を抑えるだけでなく、T細胞などの免疫機能にも影響を与えます。免疫細胞の働きを抑えることで、炎症を抑えることができます。

乾癬では光線療法という治療法が用いられることがありますが、これは血液中のビタミンDの前駆物質を活性化して、ビタミンDの量を増やす方法です。ビタミンDを用いる治療として、単にビタミンDを摂取あるいは塗布するだけでなく、光線療法のように自身の身体で作らせる方法も有効です。

 

ビタミンD欠乏症の原因

食事での摂取量の低下、日光曝露の低下などの生活習慣などが一般的です。この他、炎症性腸疾患や胃の手術後、腸内細菌の過剰などによって吸収不良になっている場合や、薬の副作用なども挙げられます。

ビタミンDは紫外線を刺激として体内で合成されるため、過剰な日焼け防止であったり、肌が黒かったり、室内で過ごす時間が長いような場合では、ビタミンDの合成量が低下します。

乾癬患者においてビタミンD欠乏症を合併しやすい理由は明らかになっていません。しかし、ビタミンDと皮膚疾患との関係は強く、ビタミンD欠乏症では、乾癬だけでなく、アトピー性皮膚炎、蕁麻疹などの合併が多いことが報告されています。

 

ビタミンDの1日摂取量

ビタミンDの適正量はまだ確定されていません。目安として、ビタミンD量と骨粗鬆症との関係を調査した研究の多くでは、1日400~1,000IUを毎日服用していました。ビタミンDを豊富に含む食品には、新鮮な魚やキノコ、穀類、牛乳などがあり、サプリメントも有効です。

ビタミンDの副作用として、高カルシウム血症を起こすことがあり、皮膚や髪に変化が現れたり、尿路結石を起こすことがあります。ただし、これは1日10,000UIを超える高用量を用いた場合であり、非常に稀です。用量を適切に守り、定期的にモニタリングを行うことで、十分回避可能な副作用となっています。

最近の研究では、ビタミンDの1日摂取量の上限値は4,000IUといわれています。

 

乾癬とメタボリックシンドローム

乾癬の患者さんでは、メタボリックシンドロームにかかっている方が増えています。

メタボリックシンドロームは、腹囲(男性≧80cm、女性≧85cm)、中性脂肪、血圧、血糖値などから定義される病気です。肥満に伴う過剰な脂肪組織には、脂肪細胞だけでなく、マクロファージなどの免疫細胞も存在するため、メタボリックシンドロームでは炎症が起こりやすい状態となっています。炎症が起こりやすいという点で、メタボリックシンドロームと乾癬は共通しています。

乾癬とメタボリックシンドロームの関連は、多くの研究によって示されています。ある研究では、乾癬のない方ではメタボリックシンドロームを有する確率が20.6%であるのに対し、乾癬の患者さんでは30.1%とより高い確率でメタボリックシンドロームを有していると報告されました。また、肥満の患者さんでは乾癬の治療に対して抵抗を示すことが多く、より重症化しやすいことが分かりました。さらに、体重の減量に効果があるとされている胃バイパス術を行った肥満患者では、治療による体重減少後、乾癬の症状が大幅に改善したと報告されています。

 

乾癬と心血管疾患

乾癬やメタボリックシンドロームのように、全身に炎症が起こっている、あるいは起こりやすくなっている状態では、心血管疾患(動脈硬化、心筋梗塞、脳卒中、一過性脳虚血発作など)の危険性が高まります。

炎症が起こりやすい状態では、血液中で脂肪やコレステロールが固まりやすく、血栓を形成する傾向があります。ある研究では、乾癬の患者さんでは心筋梗塞や脳卒中のリスクが高いと報告されました。さらに、重症の乾癬患者では、健康な方と比べて心血管疾患による死亡率が50%も増加することが分かりました。重症の乾癬患者では男性で3.5歳、女性で4.3歳分、寿命に影響するといわれています。

 

同様に、メタボリックシンドロームを有する患者さんも、心血管疾患のリスクが高いことは有名です。脂肪組織からは、血栓の原因となるフィブリノーゲンの産生量が増加し、血栓形成をもたらします。メタボリックシンドロームの患者さんでは、心血管疾患のリスク、死亡率ともに高く、冠動脈症候群や脳卒中の発症頻度が3倍にも増加すると報告されています。

したがって、乾癬とメタボリックシンドロームを合併している場合、心血管疾患を発症するリスクが非常に高いといえます。

 

ビタミンDの有用性

ビタミンDは乾癬の治療に広く使われており、大きな成果を残しています。ビタミンDは、ケラチノサイトにあるビタミンD受容体に結合することで作用を発揮します。ビタミンDがビタミンD受容体に結合すると、ケラチノサイトにおける細胞の成長や分化、あるいは炎症に関与する遺伝子に作用して、単球やマクロファージ、T細胞、樹状細胞など多くの免疫細胞の働きを調節します。

ある研究では、乾癬の患者さんに対してビタミンDの内服を行い、その結果85人中88%の患者さんにおいて感染の改善がみられ、そのうち26.5%は完治、36.2%は中等度の改善、25.3%は軽度の改善であったことが報告されました。

 

また、最近の研究では、ビタミンDがメタボリックシンドロームを改善できることも報告されています。ビタミンDは、メタボリックシンドロームでみられるような余分な脂肪組織を取り除く効果があり、その結果、心臓や血管への負担が低下するといわれています。

別の研究では、肥満のある女性において、体重減少の後、ビタミンDが上昇したことが報告されています。

この他、ビタミンD欠乏症の患者さんでは、インスリン抵抗性が高く、メタボリックシンドロームのリスクが高いことが分かりました。

インスリンは食事に含まれる糖分(グルコース)をグリコーゲンに変換して、体内に蓄えるホルモンです。インスリン抵抗性が高い、つまりインスリンの効きが悪くなると、糖分が蓄えられずに血液中に留まることになります。この結果、炎症が起こりやすくなったり、血が固まりやすくなってしまうため、ビタミンD欠乏症では、心臓血管事象の発生率が増加してしまうのです。

 

まとめ

乾癬はメタボリックシンドロームと密接な関わりがあり、同じような炎症状態を示します。

ビタミンDはメタボリックシンドロームにおいて治療効果があるだけでなく、乾癬でみられる皮膚の病変をも改善させることが分かりました。乾癬とメタボリックシンドロームを同時に治療するためには、ビタミンDの使用が有効と考えられます。

乾癬のみに焦点を当てても、症状の管理や予後において、ビタミンDの内服は皮膚の病変を治療できる可能性が大いにあります。

 

現在では乾癬の治療において、ビタミンDを含む軟膏やクリームが主流となっており、ビタミンDの内服はあまり行われなくなってきました。しかし、乾癬の治療においてビタミンDの内服による治療の有効性は、これまで多くの論文で証明されています。

ビタミンDは安価で手に入れることのできる薬であり、乾癬の治療だけでなく、がんや心血管疾患など多くの疾患を予防・改善できる非常に有効な治療法です。

 

【参考出典】

http://www.medscape.com/viewarticle/759112_4

https://www.hindawi.com/journals/drp/2011/276079/

https://www.psoriasis.org/advance/how-vitamin-d-can-help-psoriasis

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22103655

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