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酒さは、別名「赤ら顔」とも呼ばれ、成人期に、顔の中心の赤み、末梢血管の拡張、丘疹や膿疱(ニキビのようなぶつぶつ)などの症状が生じ、ほてり、熱感などの自覚症状を伴います。米国酒さ協会[National Rosacea Society(NRS)]は、酒さを紅斑毛細血管拡張型、丘疹・膿疱型、鼻瘤型、眼型の4つに分類しています。赤ら顔になり、さらにぶつぶつとした発疹もできるためニキビと間違えやすいのですが、酒さは主に中年以降の女性に多く発症します。正しい診断のためには酒さ疾患に精通した医師の受診が大切です。
酒さは、以前はプロピオニバクテリウム、アクネ菌やニキビダニなどのように、細菌などが原因の皮膚疾患と考えられていました。しかし、現在は環境、食事、ホルモン、生活要因などによる免疫システムの異常も大きくかかわっているのではないかと考えられています。
酒さは、心臓病、うつ病、片頭痛、高血圧、高コレステロールといった病気との関連が知られています。
また、女性の酒さの患者さんは、一型糖尿病、セリアック病、多発性硬化症、関節リウマチ等の自己免疫疾患を高率に併発し、男性では、関節リウマチを併発する率が高いことが明らかになっています。
デンマークのエジバーグ博士は酒さの患者さんが特有の健康障害に面していることを常々感じていて、後年になってそれが特に自己免疫疾患であることに気がついたと述べています。あくまでも個人的な見解としてで証明するのはなかなか難しいと思っていましたが、酒さと自己免疫疾患の関連について遺伝子研究を進めたところ「酒さは自己免疫疾患のマーカーにもなりえる」という結論に至り米国皮膚科学会誌に論文を発表しています。
酒さの患者さんが様々な症状を併発することについては、環境や生活要因によるものかもしれません。しかし、ごく最近のゲノムワイド関連調査で、一型糖尿病とセリアック病における遺伝子リスクを共有していることが明らかになりました。また、酒さと多発性硬化症と関節リウマチも遺伝子的に関連していることが示唆されました。
米国皮膚科学会誌で発表されたエジバーグ博士の論文では6759名の酒さの患者さんと33795名の健常者を15年以上に渡り調査し、酒さとその他症状との関連を探る大規模研究を行っています。その結果、酒さの患者さんでは、一型糖尿病は2.59倍、セリアック病は2.03倍、多発性硬化症は1.65倍、関節リウマチは2.14倍と高い罹患率であることがわかりました。なお、今回見られた遺伝的関連は、特定の酒さのタイプや重症度にあてはまる可能性がありますが、今回の調査では、酒さの分類と重症度ごとの同定はできていません。
一般的に女性は自己免疫疾患に罹患しやすいと言われていますが、酒さも同様に女性により多く見られます。エジバーグ博士は、性ホルモンの影響や染色体異常によるものかもしれないとしています。それ以外の意見としては女性は日焼けを気にするあまりビタミンDの血中濃度が低いことに起因しているという説もあるようです。
酒さと自己免疫疾患に関連があることをどう活用したらよいのでしょうか。関連があることを知っていれば、基礎疾患を早いうちに発見して、治療を開始することができます。例えば、多発性硬化症と関節リウマチは早期に積極的に治療を行えば病気の経過が比較的穏やかになることがよく知られています。
では、酒さの患者さんに対して、一型糖尿病、多発性硬化症、関節リウマチ、セリアック病などの自己免疫疾患の検査をするべきでしょうか。検査の内容にもよりますが、酒さの高い罹患率を考えると、全員に検査を実施することで多くの費用が発生することが懸念されます。
しかし、「手にしびれやうずく感じ、脱力感はありますか」、「小麦やその他のグルテンを食べると胃腸障害や下痢などになりますか」「関節痛や硬直はどうですか」などの質問にyesだと感じた場合は医師に相談する必要があります。とはいっても酒さが免疫疾患とかかわっているということを知っている医師も少なくないので熟練した医師にお尋ねすることをお勧めします。
こうした病気を引き起こしている要因が似通っているためなのか、酒さと自己免疫疾患の両方の治療に役立つ薬剤もあります。メタ分析はテトラサイクリン系抗生物質、特にミノサイクリンは関節リウマチの疾患活動を著しく改善することが明らかになっています。また、別の臨床試験では、ドキシサイクリンとβインターフェロン併用で多発性硬化症の治療に効果があると証明されています。エジバーグ博士は、最近、米国の研究者らが酒さと潰瘍性大腸炎の関連について示唆しており、酒さがさらに他の自己免疫疾患と関連があるのか、興味深いと話しています。
酒さの発生には腸内環境が大きく関わっています。腸内環境が悪化したことによってTNF-αなどの炎症性物質が肌に影響を与え、何らかの環境因子や遺伝的要因が複雑にかかわりあったことにより酒さを発生させています。TNF-αなどの炎症性物質は自己免疫性疾患にもインスリン抵抗性、高血圧などの生活習慣病にも密接にかかわっていますから’酒さと自己免疫性疾患’の関連も至極当然です。