カテゴリ:
酒さは聞きなれない病気かもしれませんが、実は周りにも同じ苦しみを抱えた人がいる可能性があります。アメリカでは推定1600万人の人が酒さを患っていると言われておりメジャーな疾患だからです。酒さが大人ニキビと誤診されているケースも少なくないようです。
酒さを治す具体的な治療法はまだ完全に解明されておらず、現段階では酒さの赤ら顔や大人ニキビを引き起こす原因が何なのかを特定することを世界中の医師や研究者が目標としています。一つだけはっきりしていることは酒さ発症の要因は個人個人で異なっているということ。そして原因は一つではなく、様々な要因が重なり合って起きていることにあると認識することにあります。
今回のテーマであるグルテン不耐症、またはセリアック病によって酒さを発症する人もいればしない人もいます。
私たちは酒さの治療の上で大事なことは原因を同定した上での良い投薬やライフスタイルを上手くマネージメントをすることにあります。酒さに限りませんが、ご自身の健康問題に対する治療計画を立てるときは常に医師に相談してください。
頻繁に鼻、頬(ほお)、額(おでこ)または顎(あご)にできる大人ニキビや赤ら顔は酒さ発症の兆候の可能性があると言えます。発症してしばらくたつと、小さくても目に見えるくらいのクモ状の血管が顔に出たり、目がうるうるして痒かったり、顔が火照ったり、焼けたりするような感じが目立ってきます。もちろん大人ニキビが悪化したことによる顔の表面の隆起やかゆみもより目立つようになり、酒さの症状が増えてきます。酒さが悪化してくるにつれて鼻が真っ赤に、丸く大きくなってくることもあります(サンタクロースに出てくるトナカイさんのようなイメージ)。
このような鼻の変化は医学的には生命の危険とは見なされていませんが、永久的にこの状態が続く可能性があります。こうした見た目の変化から自尊心が低下することから日常生活に影響を及ぼす可能性があります。
酒さはある特定の民族の間で発症しやすく、スウェーデンでの研究ではヨーロッパ系の祖先を持つ約10%の人が発症するとされています。ある特定の祖先を持つ人々が酒さを発症しやすいというのは米国酒さ協会 (NRS)の研究でも証明されています。
酒さは昔、感染因子によって誘発された毛細血管の炎症性疾患であると考えられていましたが、現在では、環境、食生活、ホルモンおよび生活習慣の要因や遺伝的な要因から酒さが発症することが明らかになってきました。酒さ発症の要因の約50%が遺伝的な要因であり、また残りの約50%が環境的な要因であると言われていますが、具体的な原因は完全には判明していません。
グルテンを含まない食材を摂るグルテンフリーは、もともとグルテンが引き金となる代表的な疾患であるセリアック病の治療のための食事療法でした。セリアック病とは、グルテンを摂取することで、小腸が異物の侵入と勘違いして自らの小腸を傷つけてしまうという自己免疫疾患です。セリアック病の場合は食物が適切に吸収できなくなり、下痢、便秘、腹痛、体重の変動、疲労感、栄養失調などが引き起こされます。ただし、セリアック病は重い症状の患者だけでなく明らかな自覚症状が出ない軽い症状のケースもあります。最近では有名テニスプレーヤーであるジョコビッチさんの本が話題になったのは記憶に新しいところです。
アメリカのセリアック病の患者数は約300万人と推定され、近年飛躍的に増えています。セリアック病が増加する原因と考えられるのが、アメリカ人のグルテン摂取量の増加です。また、穀類を品種改良することによりグルテンの強さも以前より強くなっていきました。こうした環境の中グルテン漬けの食生活によりセリアック病の患者が増加しただけでなく、セリアック病ほどではないものの、グルテンに反応して何らかの不調、例えば慢性疲労、下痢、便秘、アトピー、皮膚の乾燥などが出るグルテン不耐症などを患う人まで増加し、その改善のための食事療法としてグルテンフリーはさらに注目されるようになりました。
ジョコビッチ氏はいわゆる「リーキーガット」に陥っていました。リーキーガットとは日本語で『リーキー=漏れる』『ガット=腸』を意味します。その言葉の文字どおり、何らかの原因で小腸の腸管に炎症を起すことで小腸の内側が損傷して小腸のネットに穴が空いてしまうことをいいます。元々小腸の粘膜を覆っている細胞は、1つ1つが規則正しく結びついて並んでいるのですが、グルテンアレルギーがある場合には、グルテンによりこの細胞の結びつきが崩れて緩み腸管に穴が開いてしまします。すると普通ならネットの網目を通ることができないものまで小腸から漏れ出して体内に取り込んでしまうといった症状が起こりるのです。リーキーガットによって体内に取り込まれてしまうものとしては、グルテンやカゼインをはじめとするタンパク質の他、消化できていない食べ物や細菌などがあり、これらが小腸から血液中へ流れ込んで全身で免疫反応を引き起こしていくことになります。
グルテン不耐症、セリアック病ともに医学界において皮膚障害の根本的な問題として注目されており、酒さ、ニキビ、アトピー、湿疹のような様々な皮膚トラブルが現れる可能性があるとされています。2006年に”欧州皮膚科学会雑誌で発表された論文ではグルテン不耐症が多くの皮膚疾患の原因になっているかもしれないと示唆されています。
セリアック病、グルテン不耐症ともに小麦の中のタンパク質であるグルテンを摂取することを避けることによって治ると考えられています。しかし、グルテンの摂取をやめたからといって、必ずしも酒さの症状が治るとは限りません。酒さ発症の要因は人それぞれ違うということと、先ほど述べたように様々な要因が絡み合っているからです。
そのため最適な治療を行うためには食べた食事や皮膚の症状・状態、どれくらい日光を浴びたか、ストレスレベルやその他諸々を毎日観察し、記録することが、酒さの改善に対して有効だと言えます。多くの人の酒さ悪化の要因には、運動、暑いまたは寒い気候、日光、風、スキンケア用の化粧品、辛い食べ物、アルコールや温かい飲み物の摂取などが挙げられています。
Aさんは酒さの症状が改善しましたが、その後仕事でのストレスから、再び小麦やグルテンを含む食べ物を食べるようになりました。すると、食べ始めてからほんの10〜15分以内に頬が赤くなり、痛みが出てしまいました。グルテンを含むものでも含まないものでも、小麦を摂取すると酒さの症状が発症してしまうようでした。そこでAさんはそれ以来、彼女の祖母と一緒に、小麦やグルテンを取り除く食生活を徹底することにしました。その結果、Aさんらは食生活を改善してから現在まで、酒さの症状が出ずにすんでいます。Aさんのように自ら自分の食生活や日常生活を見直し、自分の酒さ発症の要因を見つけることによって、症状を起こさせないことができることがあります。もちろんAさんの場合は酒さ発症の理由はおそらく小麦、グルテンなどの食生活でしたが、人によっては食生活ではない可能性もあります。
【渋谷セントラルクリニックDrコメント】
酒さ治療の鍵は食生活にあることは間違いありません。当院の診療経験からすると日本人においてはグルテンよりも、乳製品(乳糖不耐症)にも反応する人が多いようにも思えます。グルテンフリーや乳糖フリーを数週間してみて調子が変わるかみてみるのが大事です。食生活の改善だけでは皮膚が劇的に良くなることは期待できないかもしれませんが、気分の変化、便通の改善などを一つの指標にするのが宜しいのではないでしょうか?