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酒さとは、病名に「酒」という文字が入っている通り、お酒を飲んだような赤ら顔と大人ニキビが混じった慢性的な皮膚の病気です。酒さは男女ともに罹り、子供でも大人でも罹りますが、女性にやや多くみられ、中高年以降に診断されることが多い病気です。
顔がほてり熱感を持つ赤ら顔が特徴で、特に頬が赤くなり、気温の影響を受けやすいことが知られています。一方、身体の他の部位には変化はなく、熱なども出ないことが知られています。初期には一時的に赤ら顔が見られますが、毛細血管が拡張することで次第に赤みが引かなくなり、数ヶ月後には頬や額、顎などに左右対称にはっきりとした赤みが見られるようになります。重症になると、赤くなるだけでなくニキビのようなブツブツができたり、鼻にボコボコとした瘤のような隆起が生じたりします。
酒さの原因は完全には明らかになっていませんが、多くの要因が絡み合って発症すると考えられています。遺伝子、血管や免疫系の異常、炎症を引き起こすような過剰な皮膚のタンパク質、神経系の異常などが研究されています。また、ピロリ菌の感染、皮膚の毛穴や皮脂腺に寄生しているニキビダニ(毛包虫)の感染、香辛料などの刺激物を摂取する食生活、温度の変化、ストレス、胃腸障害などの関連が考えられています。
★ピロリ菌ってどんな菌?
ピロリ菌は胃に感染する一般的な細菌で、一説によると世界中の約半数の人はこのピロリ菌に感染しているとも言われています。特に衛生的な環境の整っていない地域に住んでいる人では、感染している人の割合が高いことが分かっています。
通常、胃の内側には胃の粘膜が張り巡らされており、強い胃酸から胃自身を消化してしまわないよう守っていますが、ピロリ菌はこの粘膜の働きを弱らせる作用をするため、胃の粘膜が傷つき、胃潰瘍を引き起こします。
この他にもピロリ菌は、胃の炎症が続くことで胃もたれや食欲の低下をもたらす慢性潰瘍の原因にもなります。さらに、ピロリ菌は胃がんとも関係していることがわかってきました。このようにピロリ菌は様々な病気の原因となり、腹痛や腹部膨満感(お腹が張る感じ)などが生じることもありますが、実は多くのピロリ菌感染者は無症状で、感染に気付かないまま生活を続けています。
酒さの原因を解明するための研究は多数行われていますが、その結果は研究によって異なるため、様々な疑問点が浮かび上がっています。その中で特に研究者の関心をそそり、議論となっているものの1つに、ピロリ菌があります。ピロリ菌と呼ばれる病原菌ヘリコバクター・ピロリが皮膚の病気と関わっている可能性が注目されているのです。今回は、酒さの原因について、主にピロリ菌に焦点を当て、海外の論文に基づいてご紹介していきます。
米国酒さ協会〔National Rosacea Society(NRS)〕によると、ピロリ菌は、胃酸の分泌を調整しているホルモンであるガストリンの分泌量を増やしたり、酒さでみられるような赤ら顔の発生に関係したりしている可能性があるとのことです。
酒さとピロリ菌に関連があることを支持しているラリー・ミリケン医学博士(テュレーン大学医学部名誉教授)は、ピロリ菌の除菌治療によって酒さが改善した患者さんを診たことで、酒さとピロリの関係に偶然気付いたそうです。
しかし、NRSの研究では、ピロリ菌に感染している患者さんの数は、酒さのある人よりも酒さのない人の方が多いというデータが示されています。
また、アメリカのある研究チームは、酒さの症状があり、かつピロリ菌に感染している44人の患者さんに対して、ピロリ菌に有効な抗菌薬を2週間投与するグループと、プラセボ(偽薬:抗菌薬の成分は含んでいない)を2週間投与するグループで治療効果を比較するプラセボ比較試験を行ったところ、治療から2ヶ月後、両グループともに酒さが改善したという結果が報告しています。つまり、ピロリ菌の治療薬とプラセボの、酒さの改善に対する有意な差はなく、この研究では、ピロリ菌の感染が酒さの原因になっているとはいえないと結論づけています。
アメリカの研究チームと同時期にトルコの研究チームは、酒さの患者さんにおいて、ピロリ菌を除去することで皮膚の病変が改善するかどうかを調べていました。この結果、ピロリ菌の標準治療である抗菌薬の投与(オメプラゾール30mg 1日2回、クラリスロマイシン500mg 1日2回、メトロニダゾール500mg 1日2回)によって、酒さが十分に改善したと報告しています。トルコの研究者たちは、ピロリ菌は酒さの原因となり、ピロリ菌の除菌は、酒さに対しても有効な治療だろうと結論づけています。
また、別の研究では、酒さの患者さんは88%の確率でピロリ菌に感染しているのに対し、消化不良などの胃腸障害の症状はあっても酒さや胃粘膜の病変のない患者さんでは、ピロリ菌の感染率は65%で、この2つのグループの間には有意に差が見られています。そしてピロリ菌の除菌治療2週間後には、97%の患者さんにおいてピロリ菌が検出されなくなり、酒さの症状は61人中51人に改善が見られたと報告しています。
さらに、最近行われたスペインの研究では、酒さ、特に赤い隆起や吹き出物を引き起こすような重症の大人ニキビを併発しているタイプの酒さにおいて、ピロリ菌の除菌治療は有益であるとの報告があります。
酒さとピロリ菌の関連は研究によって証明されることもあれば、証明できないこともあり、この2つの関連性については論争が続いています。
このように議論が混乱している中、ミリケン医学博士は、全員とは言わないが、一部の酒さの患者さんはピロリ菌の除菌によって酒さも改善するだろうとしています。ミリケン医学博士は、ピロリ菌に感染しているにも関わらず、ピロリ菌除菌の標準治療(抗菌薬の投与)で酒さが改善しなかった人は、3剤併用の治療(2種類の抗菌薬と胃酸の働きを抑える酸化マグネシウムの併用)を行うべきだと勧めています。しかし、治療には合併症があり、全てが保証されるわけではないため、適当な気持ちでは治療を受けるべきではないと強調しています。
ミリケン医学博士は、「酒さの原因解明において有望な研究は多数あるものの、研究費が足りていないのが現実。酒さには、多数の謎がまだあり、酒さは5000ピースのパズルのようなもの。しかも我々はまだ200ピースしか持っていない」としています。
【渋谷セントラルクリニックDrコメント】
私たちの印象では重症の患者さんであればあるほどピロリ菌の検査をすると陽性を示す印象があります。ピロリ菌陽性のケースでは治療に対する反応が悪い印象を強く持っております。
ピロリ菌を除菌すれば酒さが改善するとは思いませんが、治療の過程で除菌は必要不可欠だと考えております。また酒さのためだけではなく、胃がんなどの疾患を予防するという観点からも除菌を強くお勧めいたします。
【参考出典】
http://www.everydayhealth.com/rosacea/the-h-pylori-rosacea-connection.aspx
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12224687
http://www.hyogo.med.or.jp/?p=2940(兵庫県医師会)
http://www2.tokushima.med.or.jp/article/0000402.html(徳島県医師会)