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ミネラルとは、身体に必要な栄養素のうち人の身体では作ることのできない栄養素のことをいいます。16種類の元素(ナトリウム、マグネシウム、リン、イオウ、塩素、カリウム、カルシウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、銅、亜鉛、セレン、モリブデン、ヨウ素)が含まれます。
カラダにミネラルが吸収されるには、胃酸が必要です。胃酸は一般的に食べ物の消化と食べ物と同時に取り込まれた細菌などを殺菌する作用があることがよく知られていますが、ミネラルを吸収する際にも必要となります。そのため、胃酸が不足していると、消化が不完全になるだけではなくミネラルの吸収量が低下します。
そして何よりミネラルの吸収が低下して貯蔵していたミネラルもなくなると、肌に悪影響をもたらすのです。
酒さは、顔に赤みやほてりが生じる赤ら顔や、大人ニキビに似た皮疹が特徴的な皮膚の病気です。
酒さの原因の1つとして、一部の患者さんは胃酸の分泌量が少ないことが指摘されています。胃酸の分泌量が少なくなっている場合、ミネラルの吸収が低下すること、食物の分解が不十分なことに起因する腸内環境の悪化によって酒さなどの症状を引き起こすことにつながります。
ミネラルのうち、「亜鉛」と酒さに着目した研究では、酒さの患者さんが亜鉛を内服することで酒さの症状が改善することが分かりました。しかも、その効果はわずかなものではなく、大幅な改善が得られています。また亜鉛を内服していた患者さんが、亜鉛の内服を止めて、プラセボ(偽薬:亜鉛を含まない)の内服に切り替えると再び酒さの症状が再燃したことからも、亜鉛がいかに酒さにとって必要な栄養素であるかが示されています。
酒さの患者さんに亜鉛を内服してもらい、その経過を観察した研究で、交叉試験という方法で行われたものをご紹介します。交叉試験では、研究の対象となる患者さんをA,Bの2つのグループに分け、研究の前半と後半で使用する薬品を入れ替えます。研究の前半では、Aグループには研究の対象となる成分(今回では亜鉛)を投与し、Bグループにはプラセボ(偽薬:有効成分を含まない)を投与します。研究の後半から、今度はAグループにプラセボを、Bグループには亜鉛を投与します。このように、交叉試験は2つのグループに順番を変えて同じ薬品を投与することで、少ない人数でも精度の高い研究を行うことができます。
研究は、21~64歳の19名(男性は11名、女性は8名)、酒さの罹患期間平均4.4年(1~14年)の患者さんを対象に、ランダムに2つのグループに分けて調査しています。始めの3ヶ月間、Aグループには亜鉛、Bグループにはプラセボを投与し、3ヶ月後から、今度はAグループにはプラセボを、Bグループには亜鉛を投与しました。投与した亜鉛の量は、100mgを1日3回、計300mgで、この量を3ヶ月間毎日続けました。
この結果、Aグループでは、亜鉛投与開始後1ヶ月を過ぎた頃から、徐々に酒さの症状が引き始め、その後、赤ら顔やニキビ様の皮膚炎は大幅に改善しました。3ヶ月経って亜鉛からプラセボに変更したところ、その1ヶ月後には症状が再び現れ始めました。症状は再燃しましたが、それでも研究を始める前に比べれば、かなり落ち着いていました。
一方、Bグループでは、プラセボを投与していた最初3ヶ月間は、酒さの症状は変化せずに続いていました。その後、亜鉛の投与に変更したところ、1ヶ月後にはかなりのレベルまで改善しました。なお、副作用としては、全体の12%にあたる3名に、軽い胃の不調が報告されましたが、それ以外の副作用はありませんでした。
この研究によって、亜鉛を投与することで酒さの症状が改善することが分かりました。しかも、その効果はわずかなものではなく、大幅な改善が得られました。はじめ亜鉛を投与していたグループが、プラセボに切り替わってすぐに症状が再燃したことからも、亜鉛がいかに酒さにとって必要な栄養素であるかが分かります。
では、亜鉛とはいったいどのような働きがあるのでしょうか。
亜鉛には様々な役割があります。亜鉛は免疫機能に働きかけ、細菌やウイルスなどの病原体が体内に侵入するのを防いだり、傷が治る過程で細胞を修復したり、味覚や嗅覚などの感覚にも関わっています。しかし、亜鉛には体内に貯蔵しておく仕組みがありませんので、免疫力や細胞の修復に使った分だけ亜鉛が減っていってしまうので、その分を摂取しなければなりません。亜鉛が不足すると、免疫力が低下して体調を崩しやすくなったり、炎症が落ち着くまでに時間がかかったりするようになります。この他、下痢や食欲低下、体重減少、味覚異常などが生じることもあります。皮膚がただれたり、シミができやすくなったり、酒さの発症あるいは悪化につながります。
亜鉛を豊富に含む食品としては、肉や卵、魚、牡蠣などの動物性の食品があります。穀物や豆類にも含まれていますが、このうち20~40%しか吸収されないため、摂取しているつもりでも不足していることがあります。
亜鉛の摂取量が多すぎると、吐き気や嘔吐、下痢、胃の痛み、味覚の変化(金属のような苦みを感じる)などの問題を引き起こす可能性があります。ただし、副作用が生じるのは高用量使用した場合であり、今回の研究で使用された範囲内であれば、これらの副作用が生じることは非常にまれです。治療をする場合は、本当に亜鉛が過剰なのか不足しているのかを調べるために採血検査をすることをお勧めしています。
亜鉛は、赤ら顔や大人ニキビの皮膚炎が生じる酒さにとって、安全でシンプルな治療法といえます。そして、他の治療薬と比べればかなり安く手に入れることができます。酒さの症状に悩んでいる方は、まず亜鉛のサプリメントを始めてみるとよいかもしれません。このとき、亜鉛は銅の吸収を抑えてしまう作用があるので、亜鉛のサプリメントを摂取するときは、1日2mgの銅も一緒に採るようにしてください。
https://www.secondopinionnewsletter.com/Health-Alert-Archive/View-Archive/1395/How-to-stop-rosacea-with-an-inexpensive-supplement.htm
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16863527
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4120804/
http://www.ejim.ncgg.go.jp/public/overseas/c03/12.html