人の身体は非常に複雑な機械です。生きるためには、呼吸や循環、生殖など広い範囲にわたる機能をすべて成し遂げなければなりません。これらの機能におけるすべての過程は、ホルモンと呼ばれる化学物質によって制御されています。ホルモンは体内のメッセンジャーであり、細胞に信号を送って、各細胞が何をするのか、いつするのかを指示しています。身体が適切な量のホルモンを作り、それが自身の仕事を全うしているとき、私たちは健康でいることができます。一方、ホルモンが産生されない、あるいは産生されたホルモンに対して身体が反応しないなど、この過程になんらかの誤りが生じたとき、健康上の問題が生じます。
これは細胞の中で行われており、作られたエネルギーは、生命を維持するために必要なすべての生理的活動に供給されます。エネルギー産生を制御しているホルモンのうち最も重要なホルモンは、インスリンと呼ばれる物質です。正常時には働いているときはインスリンは身体は生存に必要な分のエネルギーを産生しています。しかし時々、身体はメッセンジャーからの信号を聞くのをやめてしまい、その結果インスリン抵抗性という障害が生じることがあります。インスリン抵抗性が生じると、一般的には体重の超過をきたします。
インスリン抵抗性は異常な状態ではありません。アメリカには人口の約25%にわたる8,000万人もの人々がインスリン抵抗性に苦しんでいると推定されています。 インスリン抵抗性の状態では、体重の増加に加え、高血圧や高脂血症、HDLコレステロール(いわゆる“善玉”コレステロール)の減少、がんのリスクの増加などとも関連しています。治療せずに放置すると、インスリン抵抗性は心臓病や2型糖尿病のリスク因子となります。
インスリン抵抗性を理解するためには、インスリンが体内で行っている重要な役割について、少し知っておく必要があります。 食事をすると、消化器系の臓器は食物をグルコースまで分解します。グルコースは糖の形態の一種で、身体にとって重要なエネルギー源となります。その後、グルコースは血液を介して体内の細胞へと運ばれます。 グルコースの量が増えると、膵臓に信号が送られて、より多くのインスリンを分泌し、血液中のインスリン量も上昇します。健康な身体であれば、インスリンは糖を血液中から細胞内へと移動させ、その細胞内でエネルギーとして使用することを可能です。 インスリンはグルコースをエネルギーに変換させ、このエネルギーを使用することで、全身の機能が正常に働くことを可能にしています。これはインスリンの最も重要な役割です。 しかし、インスリン抵抗性がある場合には、細胞はインスリンの伝達物質に反応しないため、グルコースが細胞内に入ることができません。これを補おうとして膵臓はより多くのインスリンを産生しますが、細胞はグルコースの入り口を塞いでしまっているので、追加されたインスリンは全く意味を成しません。インスリン抵抗性を持つ人々の多くは、インスリン、グルコースともに血中濃度が上昇しています。食事をする度に身体はグルコースを生成し、グルコース量が増える度にインスリンの分泌量も増加します。 専門家の中には、インスリン抵抗性は食パンや飴、ケーキ、クッキーなどの炭水化物(特に単純糖質、精製糖)が多い食品に反応して生じると考えている人もいます。単純糖質を食べると、糖は速やかに血流に乗り、血糖値が急激に上昇します。すると身体は、血糖値をコントロールするために大量のインスリンを分泌します。インスリンの大量放出が高頻度になると、時間が経つにつれて、働き過ぎた細胞はホルモンに反応しづらくなり、その結果インスリン抵抗性の状態が作り出されます。 血液中のインスリン量が増加し、高インスリン血症とも呼ばれるこの状態は、以下の要因によっても引き起こされる可能性があります。